恋愛

【連載】恋文横丁 ~ラブレター代筆屋の日々~ Vol.2「男って…」

2017年03月28日
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「依頼者の多くは男性ですね」と言うと、多くの人が意外そうな顔をする。

ラブレターは女性が書くもの、というイメージが強いのだろうか。
しかしながら、事実、男性が多い。具体的には、過去に約40件の依頼を受けたが、8割は男性だ。

はじめは、その理由を深く考えることもなく、へぇー男性の方が多いんだな・・・と他人事のようにぼんやりと思っていただけだったのだが、取材などを受ける際に、

「どうして男性の方が多いのでしょう?」
という問いに、
「うーん、なんででしょうねぇ…」
首を傾げることしかできず、そのたびに、納得感のある目から鱗の理由を期待していたインタビュアーの表情が露骨に曇り、これではいけないと思い、
「まぁ、男性の方が手紙が好きなんでしょうね、きっと…」
言葉を付け足すものの、答えになっておらず、インタビュアーの落胆の色が余計に濃くなる、ということを何回か繰り返した後に、真剣にこの問いに対峙してみた。

「男って…」

red broken heart on wooden background - dark and moody

結果、二つの理由へとたどり着いた。
一つは、相談相手の存在の有無。依頼者の多くは、ラブレターの文面の作成を僕に期待するとともに、相談相手としての役割も僕に求める傾向にある。この恋愛は成就すると思うか?相手は自分のことをどう思っているだろう?そもそも、想いを伝えてしまっていいものだろうか?色々と僕に問いかけてくる。

女性の場合、近しい友人に恋愛相談をすることは珍しいことではないだろうが、男の場合はそうではない。気恥ずかしさもあり、友人に恋愛の相談をすることはほとんどない。少なくとも、僕は一度もない。だから、代筆に加えて、気兼ねなく恋愛の相談ができる相手として、僕に依頼をしてくるのではないか、というのが思い当たった理由の一つ目。

もう一つは、男性の方がよく言えば「ロマンチスト」、悪く言えば「恋愛を引きずる」からではないかと思う。一度告白をしたけどふられた女性、過去に付き合っていたけど別れた彼女が忘れられず、離れれば離れるほど想いは募り、眠れず、食事ものどを通らず、身もだえる夜を重ね、結果、ラブレターに、代筆に、最後の望みを託すのではないかと思う。

対して、女性は異なる。もちろん、個人差はあり、「女性は異なる」と乱暴に一括りにできるものではないが、男性のそれと比べれば、過去に引きずられることは圧倒的に少ないと感じる。男性の場合、季節が移ろうような速度で、ゆっくりと未練は薄らいでいくが、女性の場合、薄らいでいく、というような悠長な速度ではなく、パッと、スッと、なくなる。

過去にそのことを象徴するような依頼者がいた。
依頼者は三十代の女性。片思いの相手に告白をしたもののふられてしまったが、想いを断ち切ることができず、ラブレターであらためて告白をしたい、という依頼だった。

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「やはり、きっぱりとふられてもあきらめきれないですか?」
「はい、そう簡単には割り切れないです・・・」
その日も、依頼者と会う際によく利用する渋谷の喫茶店にいた。
「なるほど、まあ、そうですよね・・・。ちなみに、なんと言ってふられたんですか?」
傷口に触れるような問いであることは承知しつつも、状況を正確に把握するために訊くと、
「・・・“無理”って」
「え?」
「“無理”って言われました」
「それだけ?」
「はい、それだけです」
それだけか…。俯く依頼者を前に、僕は顔をしかめた。
ラブレターでどうこうなる状況ではないと判断をしたこと、そして、そんな断り方をする男に再度告白をする価値があるのだろうか、と思ったからだ。ただ、それは代筆屋の領分ではないので、口には出さず、ただ無言でいると、
「でも、よく考えてみると・・・」
依頼者が口を開き、
「失礼ですよね。人が一生懸命告白したのに、“無理”の二文字で終わらせるなんて」
「ええ、まあ・・・、そうかもしれないですね」
僕がやんわりと賛同をすると、
「今まで特になんとも思ってなかったけど、口に出したら急に腹が立ってきました・・・」
依頼者が、声を荒げることなく、静かに、でも、確実に怒気をはらんだ声で言った。
急な展開に戸惑う僕をよそに、依頼者はその後も相手がいかに失礼かを僕に語り、挙句の果てに、
「もう、ラブレター送るの止めます。ばからしくなってきました」
と言い出した。
結局、本当にそこでこの話は終わってしまった。
簡単には割り切れないです…と数分前に言っていた人が、いとも簡単に割り切ってしまう様子を目の当たりにし、女性ってすごいな、と僕は感心をすると同時に、畏怖の念を抱いた。

この依頼者は極端な例かもしれないが、それでも、自身の周りの人間を見渡してみても、女性の方が男性よりも割り切る力に長けているのは確かだと思う。

「別れた彼女が忘れられないんです」
「別れた妻とやり直したいんです」

そんな言葉を男性の依頼者から聞くたびに、力が強かろうが、身体が大きかろうが、男っていじらしいな…、としみじみ思ったりする。

<プロフィール>

kobayashisan

小林慎太郎。1979年生まれの東京都出身。
ITベンチャー企業にて会社員として働く傍ら、ラブレター代筆、
プレゼンテーション指導などをおこなう「デンシンワークス」(dsworks.jp)を運営。
●著書
(インプレス社)

これまでの恋文横丁はこちらから

【連載】恋文横丁 ~ラブレター代筆業の日々~ Vol.1”自分勝手”な想い

 

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